我来了

▼「姉ちゃん、開かないビニールの口にはセロハンテープを貼るといいよ」

早朝のスーパー。開かないビニール袋にもたつく私へ、見知らぬおっさんが私の手元を見てそう言った。ほう…ほんとかな…?なんて疑いつつ、備え付けのセロハンテープを袋の口につけて、親指と人差し指にビニールを挟んで擦り合わせてみる。あら、すぐに開いた。「ほんとだ!すぐあいた!」と言って大笑いすると、「だろ〜?そうだろ〜?みんなにも教えてやってくれ〜!」っておっさんもつられて大笑い。朝6時のスーパーに優しいドラマあり。

 

▼よく見知らぬ人に声をかけられる。3年前だか4年前だかに、台北にある公共の混浴温泉に行った時もそうだった。公共の混浴温泉って聞くと何だかエロい響きに聞こえるかもしれないけど、残念ながらエロの要素は一切ない。大体の公共温泉では水着をきて入浴する。水着なしでも入れる温泉もあるけど、入浴料が割高だ。それに、混浴温泉って言っても、公共温泉はヨボヨボのじじばばしか入っていない。

 

そんな公共の混浴温泉にひとりで行った。深夜に成田を飛び出し、早朝に台湾着。LCCの受け口である桃園空港から台北駅までのバスが、24時間ノンストップで走っているので、とりあえず空港を脱出。超早朝に台北駅でステイ。24時間やってる店が全家(台湾のファミリーマート)か麥當勞(台湾のマクドナルド、24時間やってる店舗が意外と少ない。22時ぐらいで閉まっちゃうことが多い)ぐらいしかないので、そこらへんでMRT(台北の地下鉄)の始発を待つ。始発で台北駅よりさらに北の北投(beitoh)へ。北投から電車を乗り換えて、さらに北の新北投駅で降りる。この駅に私の目指す先である「北投温泉」がある。駅を降りた瞬間から、草津や熱海のような硫黄の匂いが立ち込める。日本が占領してた統治時代に、温泉という文化が持ち込まれたことがきっかけで、北投は今でも温泉街として観光地化している。

 

で、まあ、公共温泉に行ったわけだ。私が行ったのは、「千禧湯」というリーズナブルに楽しめる公共温泉。40元(日本円にして160円ぐらい)で温泉を楽しめる。水着を忘れた場合は、その温泉地で購入できるけど、確か300元ぐらいしたかな。入浴料より高いし、ぼったくり価格だよね。ちょっと前に調べた時は「400元で押し売りされました、怒り心頭です!」って口コミも見かけた。しかもデザインも競泳用水着のようなハイレグでクソダサいデザインなので、絶対に水着を持って行ったほうがいい。

 

その温泉は6つ湯船があって、標高の高いところにある湯船が一番高温で、入り口そばにある湯船はぬるくて温水プールみたいな感じ。まずはその温水プールでのんびりしよ〜と思ったら、いきなり隣のおばちゃん集団が話しかけてきた。

 

「あんた日本人?ひとり?ここぬるいわよね?ていうか中国語わかる?」

 

もうマシンガントーク、質問してるわりに返事させる気ゼロ。どうなってんの?

Yes、Yes、私ジャパニーズ。中国語と英語はちょっとだけ話せるよ。んで、ひとりで旅しにきたよ、ここはちょうどいい温度だね〜、ってにこやかに返事した瞬間に、

 「あんた上の温泉行きなさいよ。若いんでしょ?行きなよ、ねえ行ってよ、私たちここであんたを見てるから」

って言って、標高の高いところにあるいっちばんあっつい湯船を指差してにやにやし出した。

 

え、これは行けってこと?え〜熱いのやだなあ〜なんて思ってたら、オーディエンスがどんどんと集まってくる。2つ隣の湯船でお猿さんのお尻ぐらい顔を真っ赤にしたおじいちゃんも、にやにやして行け行けコールしながら手を叩いてる。まさか海外まで来ていじられるとは夢にも思っていなかったけど、まあ、物は試しってことでその湯船に入ってみることにした。

 

足の指をお湯につけた瞬間、あまりの熱さで「っっっつ!」って声にならない叫びをし、苦悶の表情を浮かべていたら、じじばばたち大笑い。あっはっはっは、って笑い声の大合唱。

よくよく聞いたら、その湯船は現地の人でも熱すぎるからそんなに入らないんだって。台湾人ってぬるいお湯にのんびり浸かる人が大多数で、それに比べて日本人は高温の温泉によく浸かるって聞いたから入れるかな〜?って思って、お願いしてみたんだよね、と現地のおばちゃんはゲラゲラ笑いながら話してくれた。なんなんだ全く。

 

っていう感じで、まあ、よく人に話しかけられる。だいぶ話が脱線した。長くもなった。ああ〜また台湾行けるといいなあ。

 

 


【シャムキャッツ】「我来了」新世紀ミュージック